「最初から完璧じゃなくていい」──CPAP治療を無理なく続けるために、知っておきたいこと


白畑 亨先生(しらはた とおる)
しらはた内科 呼吸器・いびき無呼吸クリニック 院長
慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院、平塚市民病院、慶應義塾大学呼吸器内科助教、JCHO埼玉メディカルセンター呼吸器内科医長、埼玉医科大学呼吸器内科講師、准教授、同 睡眠呼吸センター センター長などを歴任し、2025年12月にしらはた内科 呼吸器・いびき無呼吸クリニックを開業。ハーバード大学Brigham and Women's Hospital への留学経験を持つ。埼玉医科大学呼吸器内科 客員教授。
日本呼吸器学会 呼吸器専門医・指導医、日本睡眠学会 睡眠専門医、日本内科学会 認定医・総合内科専門医、医学博士(慶應義塾大学医学部)。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療として広く知られているCPAP療法。口や鼻にマスクをつけて空気を送り込み、寝ているあいだの気道の閉塞をふせぐ治療法ですが、「続けるのが難しい」と感じる方は少なくありません。
うまくいかないと感じたとき、診察室で医師はどんな声をかけているのでしょうか。長年にわたって睡眠時無呼吸症候群の診療に携わってこられた白畑亨先生に、CPAP治療を続けるためのコツを伺いました。

始める前に知っておきたい、たった一つのこと
「最初から完璧を目指さなくていい」
CPAP治療について、「一度始めたら一生続けなければならない」と不安に感じる方は少なくありません。確かに、睡眠時無呼吸症候群は慢性的な病気であり、CPAPは長期的に継続していくことが基本となる治療です。
一方で、白畑先生は「導入時から“毎日完璧に使い続けなければ”と気負いすぎる必要はない」と話します。
「最初から完璧にやろう、毎日寝ている間ずっとやり続けないといけない、と思い詰めてしまうと、つらくなってしまうんです。まずは一、二か月、試すような気持ちで始めてみる。そのくらいのスタンスで構いません、というお話をします」
実際に使ってみないと、自分に合うかどうかは分かりません。だからこそ、最初から肩に力を入れる必要はないのです。
最初の設定で合わないのは、普通のこと
CPAP装置は、同じ機器、同じマスク、同じ初期設定でも、すんなり馴染む人と、調整が必要な人がいます。
「最初の設定でうまくいかなくても、それは当たり前のことなんです。圧の感じ方も、マスクのフィット感も、人それぞれ違いますから」
最初の数日で「自分には合わない」と判断してしまうのは、もったいない判断です。慣れるまでに時間がかかることを前提に、少しずつ調整していく治療なのだと考えてみてください。
最初の壁は「マスク」と「空気」
最初の一週間に起きやすいこと
CPAP治療を始めて最初の一週間で、患者さんから多く寄せられる訴えとして、白畑先生は次のようなものを挙げます。
- マスクをつけて寝ようとしても眠れない
- マスクがずれて空気が漏れる
- 鼻が痛い
- 普段口を開けて寝ているので、口呼吸になって空気が逃げてしまう
これらの多くは、調整によって対応できる悩みです。
マスクが合わない、空気が漏れる
マスクの違和感や空気漏れは、定期受診時の医師の調整と、機器メーカーによるサポートの両方で対応していきます。導入の翌月には受診の機会が設けられていることが多いのは、この時期のトラブルにきめ細かく対応するためでもあります。
マスクの種類変更が解決策になることもあります。鼻だけを覆うタイプ、鼻の穴に直接装着するタイプ、口まで覆うタイプなど、選択肢はさまざまです。
鼻が痛い、口が乾く
鼻の痛みや乾燥については、加湿器の活用が一つの方法です。
「乾燥した風が鼻の粘膜を刺激してしまうことがあるので、機器に付属している加湿器を使ったり、お部屋全体の加湿を考えていただいたりすることもあります」
すべての悩みに対して「これが正解」という一律の対応はありません。その人に合う方法を見つけていく過程が、最初の数週間に行われていきます。

「朝までつける」を最初の目標にしない
白畑先生が強調していたのは、最初から完璧を目指さないことの大切さです。
「いきなり7時間つけて寝てください、というのは、患者さんにとって負担が大きいんです。起きているときにテレビを見ながらマスクだけ付けてみる、というところから始めても構いません。まずは『この装置に体を慣らす』という感覚で取り組んでいただけたらと思います」
「効いてきた」は、人によって違う
症状によって、出方もタイミングも異なる
CPAP治療の効果を実感できるかどうかは、続けるうえで大きな支えになります。ただし、効果の現れ方は、症状や個々の状態によって大きく異なります。
白畑先生によれば、重症の方ほど早い段階で日中の眠気の変化を感じることが多く、使い始めて数日で「日中の調子が違う」と話す方もいるそうです。一方で、夜間にトイレで目覚める回数の減少や、起床時の頭痛の軽減は、数週間かけて現れることが多いといいます。血圧の低下となると、月単位で観察していく必要があります。
「眠気が取れた、頭痛がなくなった、というのは、症状として分かりやすいですよね。でも実は、もっと細やかな変化が起きていることもあるんです。寝ているあいだの動悸が減って、夜中に目が覚めなくなった、と喜ばれた方もいました」
実感が湧きにくいときもある
正直に言えば、効果の実感がなかなか湧かない方もいます。重症度がそれほど高くない場合や、もともと自覚症状が強くなかった場合などです。
ただし、そこで「効いていない」と決めつけてしまうのは早計です。
データで見える、小さな変化を励みに
ご自身では気づきにくい変化が、装置のデータには現れていることがあります。
「使用時間や、寝ているあいだの無呼吸の回数といったデータをご一緒に見ながら、『先月よりこの数字が下がっていますよ』とお伝えすると、ご本人も実感しやすくなることが多いんです」
機器によっては内蔵されたアプリで、無呼吸の回数が減っていることや、いびきが減っていることを確認できる仕組みもあります。こうした客観的なデータが、続けるための小さな励みになります。
小さな変化を見つけて、それを積み重ねていく。実感はあとからついてくるもの、と考えてみるとよいかもしれません。
それでも、続ける意味はある
血圧、心臓、脳血管への影響
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると、夜中に何度も呼吸が止まり、体は酸素不足の状態を繰り返します。この状態が長期間続くと、全身にさまざまな影響が及ぶことが知られています。
「夜中に呼吸が止まると、酸素が下がって、心拍が乱れて、血圧も上がります。重症な方だと、それを一晩のうちに何十回、何百回と繰り返しているわけです。やはりそれに伴って、高血圧や脳梗塞、心筋梗塞のリスクが高まるとされています」
CPAP治療を続けることは、こうした全身への負担を軽くすることにつながります。
近年わかってきた、認知機能とのつながり
近年の研究で注目されているのが、睡眠時無呼吸症候群と認知症との関係です。
39件のコホート研究を統合した2025年のメタアナリシスによると、閉塞性の睡眠時無呼吸症候群がある方は、ない方と比べて全認知症の発症リスクが約1.33倍、アルツハイマー型認知症の発症リスクが約1.45倍高いことが報告されています(参考文献1)。
「最近、認知症の話をすると『あ、それは続けたほうがいいですね』と納得される患者さんも増えてきました。眠りの問題というのは、結局は全身の問題に関わってくるんです」
治療を続けることで、リスクは抑えられる
希望が持てるのは、CPAP治療を続けることで、こうしたリスクが軽減される可能性が示されていることです。
イギリスの大規模研究では、CPAP治療を受けている睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、未治療の患者さんと比較して認知症発症リスクが低く、治療を受けていない健康な人々と同水準まで近づくことが報告されています(参考文献2)。
「血圧の薬と同じで、CPAPは続けているから効果が保たれている状態なんです。やめてしまえば、また元に戻ってしまう可能性がある。そういう意味でも、長く付き合っていく治療として考えていただけたらと思います」
季節と生活の変化と、どうつき合うか
意外と難しいのは「夏」
季節の変化が、CPAP治療の継続に影響することは、研究でも報告されています。
日本の睡眠時無呼吸症候群患者を対象とした研究では、夏が他の季節に比べて治療の継続度合いが低く、無呼吸低呼吸指数も悪化する傾向があると報告されています(参考文献3)。海外の研究でも、気温の上昇に伴ってCPAPの使用時間が短くなる傾向が報告されています(参考文献4)。
「汗をかきやすかったり、マスクが蒸れて暑く感じたり、夏ならではの理由があるんですね。冬の乾燥や春の花粉症も影響しますが、私自身の臨床実感としても、夏は工夫が必要な季節だと感じています」
季節に応じて、加湿の調整や室温管理、場合によってはマスクの種類の見直しを検討することもあります。使い続けていて季節による違和感が出てきた場合には、迷わずかかりつけの医師に相談してみてください。
旅行や出張のとき、どうするか
旅行や出張など、一時的な生活の変化についても、白畑先生は柔軟な考え方を示してくれました。
「一泊二日の旅行に、わざわざ装置を持っていかなくてもいいですよ、というお話もします。心理的に『絶対つけなければ』と思いすぎることのほうが、かえって続けにくくなってしまうので。その代わり、普段の日にきちんと使っていきましょうね、という形で調整していきます」
ただし、これはあくまで一つの考え方であり、すべての方に当てはまるわけではありません。重症度や治療の経過によって、短期の旅行であっても装置を持参したほうがよいケースもあります。具体的な対応はかかりつけの医師と相談しながら決めていくのが望ましいでしょう。
無理に「絶対」と思わないことが、続けるコツ
CPAP治療には保険適用上の使用条件があり、毎月の使用日数や時間の基準が定められています。ただ、この基準を意識しすぎてストレスを抱えてしまうのは本末転倒です。
生活のなかに無理なく取り入れていく工夫が、結果的に長く続けることにつながります。

続けられている人に、共通する3つのこと
長年CPAP治療に取り組む患者さんを診てきた経験から、白畑先生は「続けられている方には、いくつかの共通点があるように感じる」と話します。
① 小さな変化を見つけられる
朝の目覚めが変わった、日中の眠気が減った、いびきが消えたと家族から言われた──そうした変化を自分で見つけられると、続ける動機が自然に維持されます。
最初は気づきにくくても、診察のなかでデータを見たり、ご家族から指摘を受けたりするうちに、「あ、確かに変わっているかも」と感じられるようになる方も多いそうです。
② 前向きに相談できる
「ここをこう変えてみたい」「最近こういうことが気になっている」と、診察のなかで自分から話す方は、調整がうまく進みやすい傾向があるといいます。
「機器に内蔵されたアプリで、無呼吸の回数が減っているのが見える、いびきが減っているのが分かる、というように、可視化できる情報があると、続けやすくなる方が多いですね」
③ 家族と一緒に取り組む
「ご本人にはあまり自覚症状がなかったけれど、いびきが消えて家族が喜んでくれているから続けている、という方もいらっしゃいました」
家族の存在は、CPAP治療を続けるうえで大きな支えになります。同じ部屋で寝ているパートナーや、健康を気にかけてくれる家族の声は、自分一人では気づけない変化を教えてくれることもあります。
慣れたころが、実は次の分かれ道
「歯磨きを忘れる」ような感覚で
CPAP治療を始めて3か月ほど経つと、多くの方が装置の使い方に慣れ、生活の一部として馴染んでくるといいます。「習慣化」できれば、ここから先は楽になる──と思いたいところですが、白畑先生はここに別の落とし穴があると指摘します。
「3か月くらい経って、CPAPに慣れて生活の一部になってくると、今度は逆に油断が出ることがあるんです。歯磨きを忘れて寝てしまうような感覚で、装置をつけずに寝てしまう日が増えてしまう、という方もいらっしゃいます」
慣れたからこそ、つける日とつけない日のムラが出てくる。これは多くの患者さんに起こりうる現象です。
定期受診を、立て直しの機会に
そんなときに役立つのが、定期的な受診です。
「前回は何日、今回は何日と、使用状況を一緒に確認していくんです。ちょっと減ってきていますね、次までに増やせるか様子を見ましょうか、と声をかけると、自然と意識が戻ってきます」
「使えていない時期がある」ことを責められたり、嫌な顔をされたりすることはありません。むしろ、そうした情報こそが、医師にとって調整のヒントになります。定期受診は、緩んだリズムを立て直すための機会として活用できます。
「やめたい」と思うのは、よくあること
誰もが通る道
CPAP治療を続けていくなかで、「やめたい」「無理かもしれない」と感じる瞬間が来ることは、よくあることです。多くの方が一度はそう感じる時期を通ります。
理由は本当にさまざまです。
「症状がよくなったから、もういらないのではないかと感じる方もいます。逆に、効果が感じられないと感じる方もいる。経済的な事情で迷う方もいらっしゃる。理由が分かれば、それぞれに対して提案できることがあります」
「やめたい」と感じることそのものは、特別なことでも、自分が弱いせいでもありません。
できなかったことこそ、医師に話してほしい
白畑先生が繰り返し強調していたのは、うまくいっていないことを医師に伝えてほしい、ということでした。
「うまくいっていないことを、医師に伝えづらいと感じる方は多いと思います。先生に申し訳ないとか、できていないと言いづらいとか。でも、何ができていなくて、何に困っているのかを話していただくことで、私たちも次の手を考えられるんです」
できたことを伝えるのと同じくらい、できなかったことを伝えることが大切です。
うまくつけられなかった夜があった、出張で持っていけなかった、最近マスクのフィット感が変わった気がする──こうした「うまくいっていないこと」の情報こそが、その人に合う調整につながります。
迷ったら、気軽に相談を
「ちょっと迷いが出てきたな、というタイミングで、気軽に相談してください。次の予約まで一人で抱え込まないで、というのが私からのお願いです」
CPAP治療は、最初から完璧を目指すものではなく、患者さん一人ひとりに合わせて時間をかけて整えていく治療です。うまくいかない時期があるのも、調整に時間がかかるのも、特別なことではありません。
迷ったとき、つまずいたとき、それを誰かと共有できることが、続けるための何よりの助けになります。

大井 元晴先生
大阪回生病院 睡眠医療センター 名誉センター長
京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所助教授、大阪回生病院内科部長などを経て、2001年より大阪回生病院睡眠医療センター長。
日本内科学会、日本呼吸器学会、日本呼吸管理学会、日本睡眠学会に所属。
記事ご利用にあたって
本記事に登場する症例や効果の現れ方は、白畑先生の臨床経験に基づくものであり、すべての方に同じように当てはまるわけではありません。CPAP療法の具体的な効果や治療方針については、必ずかかりつけの医師にご相談ください。
参考文献
- Ungvari Z, et al. Sleep disorders increase the risk of dementia, Alzheimer's disease, and cognitive decline: a meta-analysis. GeroScience. 2025.
https://link.springer.com/article/10.1007/s11357-025-01637-2 - CHEST Physician. Early treatment with CPAP may reduce dementia risk for patients with OSA. 2025年4月(UK大規模研究の報告).
https://www.chestphysician.org/early-treatment-with-cpap-may-reduce-dementia-risk-for-patients-with-osa/ - Fujino Y, Oka Y, Wakamura T. Seasonal effects on the continuous positive airway pressure adherence of patients with obstructive sleep apnea. Sleep Medicine. 2021;80:126-133.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1389945721000411 - Vidal C, et al. The influence of atmospheric temperature on long-term CPAP-usage in patients with obstructive sleep apnea. Sleep Medicine. 2025;128:22-28.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1389945725000231
取材協力
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