「睡眠に関する調査2023」から
見えてきた眠たい国、
ニッポンの実態。
世界で最も短い日本人の睡眠時間。その実態に迫る
世界で最も短い日本人の睡眠時間。その実態に迫る
9月3日は、睡眠について考える「睡眠の日」です。精神・神経科学振興財団と日本睡眠学会の協力によって2011年に制定されたものです。近年、睡眠は脳や体の休息以外にも記憶の整理、感情安定、疲労回復などの重要な役割を担っていることが解明され、ますます注目を集めています。
OECDの2021年の調査報告では、加盟国30か国中で日本人の睡眠時間は平均7時間22分でワースト1位でした。中国9時間1分、アメリカ8時間51分、フランス8時間32分と諸外国と比べても、日本はかなり睡眠時間が短いことがわかります。*1 心や体の健康への影響も懸念され、日本全体の課題としてとらえるべきテーマかもしれません。 なお、 健康成人の必要な睡眠時間は7時間以上とされています。*2
フィリップスでは、日本人の睡眠実態を明らかにすべく、2023年7月12〜23日にかけて「睡眠に関する調査2023」を実施しました。全国3,752人の方からインターネットでご回答をいただいた結果、驚きの結果が次々と出てきました。
睡眠に満足している人は17%。不満の最多理由は「眠りが浅い」
1日の睡眠時間(表1)については、睡眠時間が6時間以下の人が74%と大多数を占めました。そして、睡眠に満足しているか?の問い(表2)に「はい」と答えたのはわずか17%、「いいえ」が64%にのぼりました。その理由として最も多かったのは「眠りが浅い」。続いて「睡眠時間が短い」「寝つきが悪い」の順でした(表3)。
世界一睡眠時間が短いとされる日本人の実態を裏づける結果となりましたが、「睡眠時間が短い」以上に、「眠りが浅い」が睡眠の満足度を下げる要因となっていたことが、今回の調査で浮き彫りになりました。
眠たい国、ニッポン。日中の眠気を感じる人は89%も
睡眠不足の状態が続くと、日中の眠気やそれによる弊害が懸念されます。日中の眠気(表4)が「ある」(42%)、「たまにある」(47%)と答えた人は計89%にのぼりました。回答者の9割近くが、日中の眠気を自覚していることが明らかになりました。
眠気を感じた際の工夫については、「身体を動かす」「カフェインを摂取する」「仮眠する」といった一般的な対策以外に、「太陽に当たる」「深呼吸して、酸素を取り込む」「頭を振って目覚めさせる」「我慢」など睡魔を追い払うためにそれぞれに工夫や努力をしていることがわかりました。
日中の眠気が原因で起きたアクシデントやエピソードは2,139件もの報告が寄せられ(表5)、かなり多くの方が眠気による困りごとに遭遇していることがわかります。
なかでも多かったのは「車の運転」に関連するアクシデントで、事故寸前のヒヤリ・ハットで済んだケースもあれば、実際に交通事故を起こしてしまった深刻なケースも。居眠り運転による交通事故は毎年後を絶たず、対策を考えていかねばならない問題です。
一方、職場や学校など日常生活で起きたハプニング・エピソードも数多く寄せられました。睡魔と戦っている当の本人としては眠気による苦痛は大きく、一歩間違えば事故にもつながりかねないので、やはり日中の眠気はないに越したことはありません。
充分な睡眠時間が確保できないために生じた眠気に対しては、「寝溜め」ではなく「仮眠(昼寝)」が有効だと言われています。職場環境等では昼寝が取りづらい場合もあるかもしれませんが、日中の眠気は、生産性の低下だけではなく思わぬ事故につながる危険性もあります。充分な夜間の睡眠が確保できないときには、思い切って昼寝を取り入れてみてはいかがでしょうか。必要な睡眠時間と日常の睡眠時間との差の睡眠不足を睡眠負債といい、睡眠負債の回復には、必要な睡眠時間を2-3週間確保する必要があるといわれています。*3
睡眠の満足度を高めて日中の眠気を防ぐには、ライフスタイルや睡眠環境の見直しなどで睡眠習慣を大きく改善していくことが不可欠です。今回の調査では、快適な睡眠のために工夫しているか?の質問に、37%の人が「ある」と答えました(表6)。具体的には室温の調整、枕をはじめとした寝具を最適化するなど。
近年、さまざまなところで睡眠環境の重要性について言及されていますが、「入眠儀式」と呼ばれる眠りにつきやすくするために行う寝る前の行動を整えることも大切です。無呼吸ラボでは、その「入眠儀式」についてもご紹介しています。ぜひ、チェックしてみてください。
さらには睡眠環境にとどまらず、コロナ禍によるライフスタイルの更新にともない、睡眠の質が変化したという声も聞かれます。テレワークで睡眠に割ける時間が増えた一方、運動不足により睡眠の質が下がった、というものです。
じつは身体的負担が大きい「いびき」に要注意
なかには十分な睡眠時間を確保したり、睡眠環境を最適化しても、睡眠が改善されないケースがあります。それは「睡眠時無呼吸症候群」という病気が原因となっているケースです。40代以降に増える病気で、男性では40歳~50歳代が半数以上を占め、女性は閉経後に増加するといわれてます。*4 潜在的な患者数は900万人(AHI≧15回/時)いると想定されています。*5
睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が何度も止まったり、浅くなったりする病気で、ほとんどの場合、「激しいいびき」をともなうのが特徴です。たかが「いびき」と思われがちですが、いびきにより生じる無呼吸状態は、いわば“呼吸不全”の状態です。重症患者の就寝中の血中酸素飽和度は、酸素濃度のごく薄いエベレスト山頂にいるときと同程度になることもあるほど、身体的負担が甚大なのです。
いびきによる無呼吸から、血液中の酸素が低下し、中途覚醒が何度も発生するので睡眠は不十分になります。その結果、日中も眠気や気怠さを感じ、集中力が低下して事故などの原因となることも。実際、重症の睡眠時無呼吸症候群患者が交通事故を起こす確率は一般ドライバーの2.5倍といわれています。*6
今回は、“睡眠に影響の大きい病気”として実態を調査しました。95%もの人が「睡眠時無呼吸症候群」「SAS(Sleep Apnea Syndrome、睡眠時無呼吸症候群の略称)」という病気を見聞きしたことがあるとの回答でした。身近に睡眠時無呼吸症候群の診断を下された人がいる人は30%にのぼり、そのうち65%が医療機関での治療を受けているとのことでした(表7〜9)。
40歳を過ぎたら、簡単セルフチェックで睡眠診断を
睡眠時無呼吸症候群が身近な病気であることが明らかになりましたが、どのような人が発症を疑われるのでしょうか。一番わかりやすい症状は「いびき」ですが、日中の眠気や倦怠感に加え、寝相が悪い、寝汗をかく、夜中に何度も起きるなども症状に加えられます。また、太り気味の人、やせていてもあごが小さい、あごや首に肉がついている人は、気道が圧迫されやすいため、睡眠時無呼吸症候群を発症しやすいといわれます。
その他の主な症状はこちらに、また罹患しやすい人の特徴はこちらに詳しくまとめています。
無呼吸ラボでは、簡単セルフチェックで睡眠時無呼吸症候群の可能性をチェックすることができます。睡眠はいびきが気になる人、また、ご家族に「いびきがひどい」など睡眠時無呼吸症候群が疑われる方がいたら、まずはセルフチェックをおすすめします。
また、いざ受診しようとなった際に、何科に行けば良いのかというお声もよく聞きます。そのような場合は、睡眠時無呼吸症候群の診療を行っている全国の医療機関をまとめているこちらをご確認ください。そのほか、本サイトでは、受診の流れや検査・診断の流れ、CPAP(シーパップ)などの睡眠時無呼吸症候群の治療方法もご紹介しています。
働き盛り世代は、仕事や家庭など果たすべき責任が増えます。責任感が強く真面目な日本人は、自分の睡眠を犠牲にしてでも頑張ってしまう傾向にあるのかもしれません。しかし、長い目で見れば、しっかり睡眠をとることが自分にとっても、まわりの大切な人にとっても、幸せにつながります。40歳を過ぎたら、自分の眠りを見直す――9月3日の「睡眠の日」は、ご自分の睡眠環境や睡眠時間、睡眠の質をあらためて考えるいい機会です。ぜひ簡単セルフチェックで睡眠の質を点検してみてください。
フィリップス「睡眠に関する調査2023」
期間:2023年7月12〜23日
方式:インターネット
回答数:3,752人
*1 Gender Data Portal 2021,OECD
*2 Watson NF, et al. Recommended amount of sleep for a healthy adult: a joint consensus statement of the American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society. Sleep. 2015;38:843.
*3 Dement WC. Clin Sports Med. 2005; 24:251
*4 Bixler EO, et al. Prevalence of sleep-disordered breathing in women: effects of gender. Am J Respir Crit Care Med 2001; 163: 608.
*5 Benjafield AV et al.
Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis. Lancet Respir Med. 2019; 7: 687.
*6 Tregear F, et al. Continuous Positive Airway Pressure Reduces Risk of Motor Vehicle Crash among Drivers with Obstructive Sleep Apnea: Systematic Review and Meta-analysis. Sleep 2010, 33:1373.
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